STORY
自然に恵まれた長野県の水挽町に代々住んでいる巧は、娘の花と共に静かに暮らしている。ある日、グランピング場の設営計画が持ち上がる。開発を手掛ける東京の芸能事務所による説明会が開かれるが、その杜撰(ずさん)な計画が町の重要な財産である水源を汚染する可能性が露呈。
町の人々は強く反発する。芸能事務所の社員は町をよく知る巧にアドバイスを乞うが…。
音楽映像から生まれた、もうひとつの傑作『悪は存在しない』とは?
もはや世界的な監督となった濱口竜介監督の新作『悪は存在しない』は、アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』(2021年)の音楽を担当した石橋英子氏から、コンサートで使用する映像を依頼されたことに由来するユニークな成り立ちもあり、低予算で撮られたインディペンデント映画ではあるが、同映画監督の最高傑作と言っても過言ではないほど“濱口竜介”的だ。
映画は、東京からの移住者も増えているという長野の小さな町を舞台に、グランピング施設の建設計画という“侵入者”の到来を危惧する人々の揺れを描く。自然と人間、生活、コミュニティ、現代人の生きづらさ。監督が以前から影響を公にしているエリック・ロメールの『木と市長と文化会館/または七つの偶然』(1992年)のように、一見、時事的なトピックをフックとしながらも社会派映画に陥ることなく、時にユーモアをたたえながら、あくまでも軽やかに主題は人間そのものへと流れていく。
ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した『偶然と想像』(2021年)と地続きの作品であるとも言えるが、さらに巧みさを増した。石橋英子氏の即興ライブ上演『GIFT』では、映画とほぼ同じ素材を使ったサイレント映像が使用されている。2作品を鑑賞するのも興味深い体験になるだろう。
4月26日(金)より
Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下、シモキタ-エキマエ-シネマ K2ほか全国公開
配給:インクライン
公式サイト
※この記事は『エスクァイア・ザ・ビッグ・ブラック・ブック』2024 Spring/ Summer号(2024年4月15日発売)より転載。掲載内容は発売日時点の情報です。最新情報については問い合わせ先よりご確認ください。